認知の歪みのひどい人―自己愛性パーソナリティ障害
自己愛性人格障害(自己愛性パーソナリティ障害、ナルシシズム)は、DVやモラハラの原因となるだけでなく、認知の歪みを深刻化させる要因にもなります(Robinson et al, J Per Asssess, 2011)。この障害による認知の歪みが加わることで、合理的な対話が困難になり、関係性がより複雑化していきます。彼らは、自らの優位性を示そうとし、非を認めないために、嘘、屁理屈、詭弁、投影といった手段を駆使します。そして、これらの歪んだ思考が本人の中で「真実」として固定化されてしまいます。こうした認知の歪みは、客観的な事実とは大きく異なるものですが、本人にとっては完全に真実であるため、周囲との摩擦を引き起こします。本記事では、自己愛性パーソナリティ障害が認知の歪みを生み出すメカニズムを詳しく解説し、その影響について考察していきます。

- 認知の歪みのひどい人―自己愛性パーソナリティ障害
- 認知の歪みとは
- 一般的な認知の歪みのパターン
- パーソナリティ障害における類似点
- 一般的な認知の歪みの原因
- 認知の歪みと人格障害の関連性
- 自己愛性人格障害が認知の歪みを引き起こすメカニズム
- ひどい人を自覚させることは可能か?
- 直し方・治し方
- モラハラ婚と離婚での認知の歪みの実例ーここまでひどくなる
- ひどい認知の歪みの一因は自己愛性人格障害ゆえに自覚させることも直すことも困難
認知の歪みとは
物事を本来の解釈とは異なる方法や形で解釈し決めつけてしまい正常範囲の認識ができない状態を指します。どんな人でも独特の解釈や思い込みの癖はあります。その意味でも厳密には認知の歪みのない人はいません。しかし、その歪みが、行き過ぎてします状態が認知の歪みです。
一般的な認知の歪みのパターン

以下は、一般的な認知の歪みのパターンとその詳細な説明です。これらは心理学や認知行動療法(CBT)で認識される典型的な認知の歪みの10パターンです。
1. 白黒思考
物事を極端に捉え、中間的な状態を認識できません。「このプロジェクトが成功しなければ、私は無能だ」と考えたり、「彼が遅刻したのは私を大事に思っていない証拠だ」と結論付けることがあります。このような思考は現実的な評価を妨げ、不必要なストレスや自信喪失を招きます。
2. 過剰な一般化
一度の出来事や限られた経験から広範囲の結論を出します。「試験に落ちた。私は何をやっても失敗する人間だ」や「誰も私を助けてくれない。世の中は冷たい人ばかりだ」といった考え方が例に挙げられます。こうした思考は、新しい挑戦や人間関係を避ける原因となります。
3. ポジティブ要素の否定(マイナス思考)
ポジティブな出来事を無視し、ネガティブな側面だけを強調します。「昇進したけど、たまたま運が良かっただけだ」とか、「今日はたくさん褒められたけど、失敗もあったから全然意味がない」と感じることがあります。この結果、自己肯定感が低下し、達成感を感じられなくなります。
4. 結論への飛躍
十分な証拠がないのにネガティブな結論に飛びつきます。「彼は私を見て笑ったから、私をバカにしているに違いない」と勝手に他人の考えを決めつけたり、「このプレゼンは失敗するからやるだけ無駄だ」と未来を否定的に予測することが典型です。これにより、他者との誤解や不安を生むことになります。
5. フィルタリング
ポジティブな情報を無視し、ネガティブな情報だけを取り入れます。「今日は良いこともあったけど、上司に怒られたことばかり考えてしまう」や「褒められても失敗した部分が気になってしょうがない」といった例があります。このような思考は、悲観的な見方を強化します。
6. 感情に基づいた判断
感情を現実の証拠として受け入れる傾向があります。「こんなに不安を感じるということは、何か悪いことが起きるはずだ」と思ったり、「私はダメだと感じるから、きっと本当にダメな人間なんだ」と信じ込むことが挙げられます。この結果、現実とは異なる解釈を助長します。
7. 過剰な拡大解釈、縮小解釈
ネガティブな出来事を大げさに捉えたり、ポジティブな出来事を過小評価します。「小さなミスをしてしまった。みんなに嫌われるに違いない」と思い込んだり、「賞をもらったけど、大したことじゃない。他の人ならもっと上手くやれた」と感じることがあります。この思考は自信喪失や不安を増幅させます。
8. ラベリング、レッテル貼り
自分や他人に極端で固定的なラベルを貼ります。「私は失敗者だ」や「彼は本当にダメな人間だ」といった考え方が典型です。このような思考は柔軟な評価を妨げ、対人関係や自己成長に悪影響を及ぼします。
9. 個人化と非難
自分の責任ではない問題を自分に結びつけたり、逆に他者を一方的に非難します。「チームが失敗したのは、私がもっと努力しなかったせいだ」と自分を責めたり、「あの人が問題だ。自分には全く責任がない」と考える例があります。これにより、自責感や怒りが増幅し、問題解決が困難になります。
10. 「すべき」化
自分や他人に「〜すべき」「〜でなければならない」という過剰な義務感や期待を押し付けます。「私は常に完璧であるべきだ」や「彼は私の気持ちを理解すべきだ」といった考え方がこれに該当します。この結果、自分や他人に対する不満やプレッシャーを生み出します。
パーソナリティ障害における類似点
これらの認知の歪みのパターンや特徴のいくつかは、そのままモラハラ妻やモラハラ夫(自己愛性人格障害者やナルシシスト)の特徴そのものだと感じた被害経験者も多いのではないでしょうか。実際、この認知の歪みの対象を「自分」から「相手」に置き換えることで、多くの点が一致します。
- 白黒思考: 私はすべて正しくて、あなたはすべて間違っている。
- 過剰な一般化: 私はいつも正しくて、あなたはいつも間違っている。
- ポジティブ要素の否定: 被害者に対してはポジティブ要素を否定します。
- 結論への飛躍: ナルシシストは最初に結論がありその理由は後付けで、結論への飛躍が多い。
- フィルタリング: ナルシシストは被害者意識が強く何があっても損をしたと考えることが多いです。
- 感情に基づいた判断: 感情が結論として先にあり屁理屈で正当化。
- 過剰な拡大解釈、縮小解釈: 被害者の欠点は拡大解釈し、長所は過小評価。
- ラベリング、レッテル貼り: あなたはダメ人間。
- 個人化と非難: 他者を一方的に非難。
- 「すべき」化: 家族のためにもっと稼ぐべき、家事を完璧にすべき。そんなので恥ずかしくないのか?
一般的な認知の歪みの原因

認知の歪みは、さまざまな心理的要因や環境的要因によって形成されます。以下に、主要な原因とそれに関連する具体的なメカニズムを説明します。
過去のトラウマによる回避行動
深い心的外傷(トラウマ)を経験すると、その出来事を再現するような状況や感情を避けようとする無意識の防衛反応が働きます。たとえば、幼少期に批判や拒絶を繰り返し受けた場合、似たような状況を避けようとする結果、「他人の意見はすべて否定的だ」と決めつける認知の歪みが生じることがあります。具体例として、人前で話すときに「皆が自分を笑っている」と思い込んだり、過去の失敗を基に「また失敗するに違いない」と未来を否定的に予測することが挙げられます。
養育環境や自己肯定感の低下による「思考の癖」
幼少期の養育者や環境が人格や思考パターンの形成に大きな影響を与えます。批判的で厳しい親や無関心な態度、また過度な期待が自己肯定感を低下させ、「自分には価値がない」という信念を根付かせる場合があります。その結果、偏った思考パターンが形成され、周囲に過剰に承認を求める行動や、失敗を全体的な能力の欠如として捉える「自己否定のラベリング」が生じやすくなります。
自動思考やスキーマ(先入観や信念の枠組み)
スキーマとは、幼少期から形成される「世界や自分に対する信念や価値観の枠組み」を指します。このスキーマは現実の解釈に影響を与え、特定の状況で自動的に思考や感情を引き起こします。否定的なスキーマを持つ場合、たとえば「人は信じられない」や「努力しても無駄だ」という信念が、前向きな出来事であっても否定的に解釈されることがあります。また、「一度でも間違えたら全てが台無しだ」という完璧主義的な考え方が現れることもあります。
幼少期の虐待やいじめなどのつらい記憶
幼少期に虐待やいじめを経験すると、安全であるはずの環境に対する不信感や、自己価値感の低下が引き起こされます。この結果、「自分は無力だ」や「愛される価値がない」といった否定的な信念が形成され、認知の歪みが固定化されることがあります。たとえば、「どうせ誰も自分を助けてくれない」という無力感や、「人前に出たら攻撃される」という予測(被害妄想的な思考)が生じることがあります。
認知の歪みと人格障害の関連性
認知の歪みが生じる原因には、自己愛性人格障害(NPD)や境界性人格障害の発症原因と重なる部分があります。
1. 過去のトラウマにによる回避行動: 人格障害は機能不全の家庭で成長することが原因です。それが過去のトラウマとして機能するかもしれません。また、被害者意識がとても強いので、彼らの認識においてトラウマとして記憶されているものは一般の人よりは多いでしょう。
2. 養育環境と自己肯定感の低下: 批判的で厳しい親や無関心な態度、過度な期待が自己肯定感の低下を招き、「自分には価値がない」という信念が根付くことがあります。これが、自己愛性や境界性人格障害を誘発する重要な要因となります。
3. 自動思考とスキーマ: 彼らは「自分には価値がない」、「自分は間違いを犯してはいけない」、「自分は完璧でなければならない」といったスキーマを持っています。
4. 幼少期の虐待やいじめ: 安全であるはずの環境に対する不信感や自己価値感の低下は、「自分は無力だ」「愛される価値がない」という否定的な信念を生み出します。これも人格障害形成の典型的なプロセスです。
5. 依存症と認知の歪み: モラハラ(モラルハラスメント)は、心理的依存症の一種とみなされる場合があります。依存症と同様に、嘘や正当化を用いて歪んだ現実認識を持つことが特徴です。
自己愛性人格障害が認知の歪みを引き起こすメカニズム

自己愛性人格障害(Narcissistic Personality Disorder, NPD)は、自己愛の強調、自己重要感の誇張、共感能力の欠如といった特徴を持つ人格障害です。この障害では、認知の歪みが次のようなメカニズムを通じて引き起こされます。
簡潔に言えば、自身の優位性を誇示し、自らの非を認めないために、嘘、屁理屈、詭弁、投影といった手段を用いるようになります。そして、これらの手段が次第に本人の中で「真実」として固定化されていくのです。
自己愛性人格障害の人は、自分を特別で重要だと感じる一方で、内面では深い自己不信や劣等感を抱えている場合があります。この矛盾した感情を隠すために、以下のような認知の歪みが現れます。
過剰な自己評価と防衛機制
- 過大評価: 自分の能力や成功を過度に強調する。
- 過小評価: 他者の成功や能力を軽視することで、自分を優位に見せる。
これにより、自分を守るための認知バイアスが形成され、現実的な視点を失いやすくなります。
二分法的思考(白黒思考)
自己愛性人格障害の人は、自己評価が極端に揺れることがあります。自分や他者を「完璧」か「無価値」のどちらかでしか評価できず、微妙なニュアンスを受け入れにくいです。
- 例: 「自分が称賛されないなら、その人は敵だ」と感じる。
この極端な思考パターンが、対人関係や状況判断の認知の歪みを助長します。
否認と投影
自己愛性人格障害の人は、自分の欠点や弱点を認識することが困難です。これらの認識を避けるために、次のようなメカニズムが働きます:
- 否認: 不都合な情報を意識から排除する。
- 投影: 自分の弱点やネガティブな感情を他者に押し付ける。
これにより、他者への不当な非難や自分への過剰な正当化が進みます。
投影についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
承認欲求の過剰な依存
自己愛性人格障害の人は、他者からの称賛や承認を強く求めます。このため、自分の価値を外的要因に依存する傾向があり、以下のような認知の歪みが生じます。
- 自己中心的な解釈: 他者の行動や言葉を「自分への評価」として解釈する。
- 選択的注意: 称賛や肯定的なフィードバックだけを受け入れ、批判を無視または敵視する。
過度な完璧主義
自分が完璧でなければならないという信念があるため、自分や他者に対して非現実的な期待を持ちます。この結果として、以下のような認知の歪みが現れます。
- 失敗への過敏性: 小さな失敗でも自尊心が大きく傷つき、過剰な防衛反応を引き起こす。
- 過度な比較: 他者との比較に基づいて自己評価を変動させる。
ひどい人を自覚させることは可能か?

自己愛性人格障害が原因で認知の歪みが生じている場合、自覚させることは極めて難しい、あるいは不可能です。彼らの認知が歪む主な理由は、自身の欠点や問題を認めることができないからです。認めないことが目的であり、認知の歪みはその結果として生じます。自己愛性人格障害の大きな特徴は、自分の欠点や非を受け入れられないことです。
直し方・治し方
自己愛性人格障害を治すことが難しいのは、彼らが自分の欠点や非を認めないからです。彼らはそれを「問題」だと感じていないため、治そうとする意識も生まれません。認知の歪みは、欠点や非を認められないために形成された重要な「ツール」として深く根付いており、それを切り離すことは極めて困難です。
結果として、自己愛性人格障害を治さずに認知の歪みを矯正することは不可能であり、また人格障害そのものを治療することも非常に難しいため、現状を根本的に変えることはほぼ不可能といえます。
モラハラ婚と離婚での認知の歪みの実例ーここまでひどくなる

特に印象に残ったモラハラ元妻の認知の歪みの実例です。自己愛性人格障害が原因となるケースではここまでひどくなります。
○モラ元妻は自分が夫を暴行している映像を自分が暴行されている証拠として裁判所へ提出しました。裁判官にあっさりと「暴行してるのは貴女ですよね」と指摘されました。
元妻が「自分こそDVの被害者だ」と虚偽の主張をしたことで、裁判所は私に対し期限付き接近禁止命令(Temporary Restraining Order, TRO)を発令しました。この主張自体が、彼女による虚偽のDV申告でした。実際には、彼女が私に暴行を加えていたにもかかわらず、逆にそれを私の行為として報告したのです。その後、接近禁止命令を永続的なものにするかを決定する聴聞会(Court Hearing)が開かれました。
聴聞会の中で、元妻が「自分が被害者である」と証拠として最後に提出したのは、次男に撮影させた動画でした。驚いたことに、その動画には彼女自身が私に暴行を加える様子が映っていました。彼女は自らを被害者だと主張しながら、どうしてそんな動画を提出したのか理解に苦しみました。
動画が法廷で再生されると、元妻が奇声を上げながら私に掴みかかり、シャツを引き裂き、大声で罵倒している姿が映し出されました。その場面で私は距離を取るため、手や足で彼女を引き離そうとしました。元妻は、この行為を「自分が殴られ蹴られた証拠」として訴えました。
しかし彼女の主張は、自身に都合の良い部分だけを切り取り、全体像を歪めたものでした。掴みかかりやシャツを引き裂く行為、さらには殴りかかった事実には一切触れず、私が距離を取ろうとした行為だけを暴力と解釈し、訴えたのです。
裁判官の裁定は以下のようなものでした。
法廷で再生された動画からは、明らかに彼女の方が暴力的であることが確認されました。
さらに問題なのは、彼女が自分の夫への暴力行為を11歳の子どもに撮影させた点です。これは倫理的にも深刻な問題行為といえます。そもそもの言い争いの発端は、彼女が夫に炊飯器を使わせないという嫌がらせをしたことでした。そして彼女が接近禁止命令を求める理由も「夫に炊飯器を使わせたくない」というものですが、これは接近禁止命令を出すに十分な理由にはなりません。炊飯器を使わせないために接近禁止命令を出すわけにはいきません。
最終的に、裁判所は私に対する接近禁止命令を却下しました。この一連の事例は、自己愛性人格障害者によく見られる認知の歪みの典型といえるでしょう。元妻は、自分が夫を暴行する動画を「自分が暴行を受けている証拠」として本気で認識していた可能性があります。人格要害者自身は嘘をついていないのが厄介なところです。彼らは彼らの中の真実を語っているのですが、その真実が認知の歪みより生み出されたものなのです。
ひどい認知の歪みの一因は自己愛性人格障害ゆえに自覚させることも直すことも困難
認知の歪みと自己愛性人格障害には密接な関係があります。認知の歪みを引き起こす原因には、人格障害を形成する心理的要因が含まれています。典型的な認知の歪みのパターンは、自己愛性人格障害が原因となるモラルハラスメントの行動特性と多くの点で一致します。つまり、深刻な認知の歪みの一因として自己愛性人格障害が挙げられるのです。認知の歪みは、人格障害者が相手を攻撃し、自分を防衛するための重要な心理的手段となっています。このため、人格障害と認知の歪みは非常に強く結びついており、人格障害を克服しない限り認知の歪みを改善することは極めて困難です。さらに、人格障害自体を治療することも非常に難しいとされています。特定の人からの認知の歪みに苦しんでいる人は、人格障害がその原因になっているとの視点を持つことで、対処や解決の糸口になるかもしれません。